1 MOAB

于武陵「勧酒」(酒を勧む)
勧君金屈巵  (君に勧む金屈卮)
満酌不須辞  (満酌辞するをもちいず)
花発多風雨  (花ひらけば風雨多し
人生足別離  (人生別離足たる)

この詩を井伏鱒二が次のように訳したと高校で習った。

コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ

春には椿事がつきものだ。シリア内戦に首を突っ込むよりもアメリカ・ファーストと言っていたアメリカのトランプ大統領が、舌の根もかわかぬうちに、アサド政権がシリア国民の頭上にサリン爆弾を落とした容疑でシリア軍の飛行場にミサイル100発弱を打ち込んだ。

「このミサイルを受けてくれ どうぞつぎつぎ撃たせておくれ……」

だが、壊滅的被害を与えたはずのその飛行場から、ふたたび軍用機が飛び立っているというニュースが流れた。

ミサイルを撃ち込んだ後のトランプ政権の対シリア政策の重要な変更については、世界はこれを伝えるニュースに接していない。極悪非道な化学兵器による自国民殺害を行ったアサド大統領の排除を引き続き進めるのか、アサド大統領排除よりアサド大統領と対立しているISの殲滅を優先させるのか、これまで欧米などが支援してきた反アサド勢力をどのように扱うのか、見通しが不鮮明である。トランプ氏の頭の中で、頭の中でそれが閃くまで皆さんお待ちくださいということだろうか。



シリアへのミサイル攻撃に続いて第2の椿事が世界を驚かせた。アフガニスタンのパキスタン国境近くのナンガルハル州アチン地区にあるISの基地に、超巨大爆弾MOABを落とした。

MOABは米軍がかつてベトナム戦争で使ったデイジーカッターの後継爆弾である。ベトナム戦争では、ジャングルを切り開いてヘリポートをつくる工事を地上でやっていては面倒だと、空中から巨大爆弾デイジーカッターを落として、一気にあたりの樹木を吹き飛ばして土地を開いた。

同様の爆弾、デイジーカッター(BLU-82)を米軍はアフガニスタンのタリバン軍基地に投下した。2001年の9.11事件のあとのアフガニスタンのアルカイダとタリバンを攻撃した時のことである。重量約7トン長さ5メートルの巨体で、爆撃機から投下するには大きすぎるので、今回のMOABと同じように輸送機で運んで、荷物出し入れの開口部から落下させた。

デイジーカッターは地上到達前に液体燃料を空気中に散布して点火。爆発の衝撃波と高熱で地上のターゲットを破壊した。衝撃波は爆心地の何キロも先まで届き、タリバン戦闘員を心理的に萎えさせた。

今回またアフガニスタンで使用した超巨大爆弾MOABはデイジーカッターのさらなる巨大版でGBU-43/Bこと Massive Ordnance Air Blast(大規模爆風爆弾兵器)である。キャニスターの中にどんな爆薬が詰められているかはかは軍事機密だ。

米軍がMOABをアフガニスタンで使ったことで、カルザイ元アフガニスタン大統領が、アフガニスタンはアメリカの兵器実験場ではない、と怒ったというニュースも伝わった。

ロシア軍は米軍のMOABよりさらに大型の爆弾をもっている。中国が同様のものを持っているかどうかは不明である。MOABの衝撃波は北朝鮮だけでなく、南シナ海に埋め立ての軍事基地をもっている中国にもおそらく届いたことだろう。



2 風雪に耐えて5年の八重桜

この稿の見出し「風雪に耐えて5年の八重桜」は415日に東京・新宿御苑で安倍首相が開いた桜を見る会で、首相が一句浮かんだと言って出席者に披露したものである。新聞に出ていた。

川柳なのだろうか、それとも俳句なのだろうか。

首相官邸のサイトによると「安倍政権も風雪に耐えて5年の月日を刻んでまいりました。特に、今年の前半は本当に風雪に耐えているなあと、この観を強くしてきたわけでございますが、ここで一句思い浮かびました」と前置きして、首相は句を披露した。

「桃李もの言わざれども下自ら蹊を成す」という言葉があるが、人を集めておいて、安倍政権風雪に耐えて5年の歳月、とは“風流”な花見である。

桜を見る会の招待者は約1万人。配偶者も含め約1万6千人が参加したそうだ。

さて、この桜を見る会の経費は、内閣府によると、約4,500万円。秀吉の醍醐の花見に比べると極めてささやかだが、公開されている国会議員の2015年分の所得報告によると安倍晋三首相は3771万円だったので、経費が首相のポケットマネーからでた可能性は低い。



花にむら雲、というが、桜を見る会のころから、朝鮮半島周辺に不吉な戦雲がたれこみ始めた。

トランプ米大統領が空母カール・ビンソンを中核とした空母打撃群に、行動予定を変更して朝鮮半島に向かうよう命じたのが48日。といって、カール・ビンソンはすぐさま朝鮮半島近海に駆けつけるわけでもなく、太平洋のどこかで演習を繰り返しながら、北朝鮮に圧力をかけ始めた。

外交面でも、米朝間で脅迫めいた言葉の応酬のボルテージが高まり、テレビがここぞとばかりにお茶間の間に開戦の恐怖を送り届けた。安倍首相も13日の参院外交防委員会で、北朝鮮がサリンを弾頭に付けて着弾させる能力を持っている可能性があると述べた。

韓国軍と北朝鮮軍は激しい砲撃の演習の様子を宣伝し合った。米軍と韓国軍、それに米艦にくっついている日本の海上自衛隊が北朝鮮に圧力をかけると、北朝鮮は韓国のソウルに無慈悲な鉄槌を下すと応じる。

北朝鮮軍と国連軍(実質的には米軍)は休戦中で、それに北朝鮮は休戦協定の破棄を宣言している。したがって、北朝鮮は朝鮮戦争の再開として、韓国をまず攻める。韓国より先に日本を攻撃する理由はないし、対韓国と対日本の2正面作戦を実行する能力はない。

かつての朝鮮戦争当事者、米朝がいわゆるチキンゲームをやっているわけだ。双方に相手を避ける選択が無ければ、正面衝突しかない。

ただ不気味なのは、米国が北朝鮮に対して力の外交姿勢を取り始めた理由は、米国の軍事や安全保障専門家の間で、北朝鮮が核兵器の増産や弾頭の小型化の能力を手にし、ICBMの実戦配備さえそれほどの先のことではなくなった、という見方が強まったためだ。叩くのは今だ、という危うい雰囲気が米国にあることをメディアが伝えている。

そういうわけで、朝鮮半島が再び火の海となるおそれは皆無というわけではない。万一の場合、北朝鮮から避難する人々が中国と韓国へ、場合によっては日本へ向かう。韓国からも避難の韓国人が日本へ向かう。韓国人に加え韓国滞在中の日本人をはじめとする外国人も。日本海をボートピープルが渡ってくる。その数、地中海を渡ってEUをめざす難民の比ではないだろう。

そうなると、安保法制論議のとき日本政府作成した例の図版が現実の修羅場として現れてくる。

とはいうものの、外務省の海外安全情報のページを見ると、426日現在、外務省は韓国を対象にした危険情報を出していない。安倍首相は427-8日、訪ロのために日本を離れる。4月いっぱいは米軍と北朝鮮軍はにらみあいのまま、と日本政府は読んでいるようだ。

みなさまがほっとできる大型連休を迎えられますように。



3 性事家の系譜

最近では中川俊直衆院議員が不倫報道を受けて自民党を離党した。そのしばらく前には自民党の衆議院議員だった宮崎謙介氏が、不倫がバレて議員を辞職している。こういう場合「不徳の致すところ」と、弁解する以外に手はない。

治安のためと称して一般市民を監視下におけるようにする法律をつくろうとしている議員たちが、一般市民の好奇心に応えるため、主として週刊誌が彼らの性事を監視していることに対して、無防備であるのは不思議なことだ。

政治家のセックス・スキャンダルは、世界の国のどこにでもあるのだろうが、外国では欧州や米国の例が多く報じられる。ソ連邦時代のソ連の大物や、権威主義政治の途上国などでは、スキャンダル報道は限られていた。それとも、そうした国では政治家たちは身を慎んでいたのだろうか。



さて、筆者の記憶に残っている政治家の性事スキャンダルの古い例は、1960年代英国のプロフューモ事件である。マクミラン内閣の陸軍大臣だったジョン・プロヒューモ氏がセックス・ワーカーのクリスティーン・キーラー氏と性的関係を持った。キーラ―氏は駐英ソ連大使館のイワノフ大佐と関係があった。キーラ―氏を通じてイギリスの軍事情報がプロヒューモ氏からイワノフ大佐に流れたのではないかと疑われ、大スキャンダルになった。

次ににぎやかだったのがビル・クリントン米大統領とホワイトハウスの実習生モニカ・ルインスキー氏のいわゆる“不適切な関係”である。1990年代後半のアメリカ社会を騒然とさせた事件だ。特別検察官が任命された。その報告書が出版され、内容はリアリズムの極致と言われたほど克明で、ポルノ本を超える濃密さだと評判になった。そのころ日本に来たアメリカ人が「面白いよ」と私に1冊くれた。

アメリカではジョン・F・ケネディー大統領とマリリン・モンローの情事や、また、ロバート・ケネディーと彼女の関係が話題になった。FBIが調査資料をのちに公開した。

最近ではイタリアのシルビオ・ベルルスコーニー元首相のセックス・スキャンダルがよく知られている。セックス・パーティーでベルルスコーニ氏が未成年の女性を買春した疑いがもたれ、検察の取り調べを受けた。

フランスでも政治家の性事は盛んで、フランソワ・ミッテラン大統領が、婚外子のことを訪ねたメディアに「それで?」と応じたという逸話が残っている。最近ではオランド大統領と某女優と関係がゴッシプ記事になった。

田中角栄元首相は2人の愛人との間に子どもをもうけたが、なぜか深刻なスキャンダルに発展することはなかった。逆に宇野宗佑首相の場合は、週刊誌に元愛人だった女性が、宇野はケチで、指三本立てて(毎月の手当30万円の)愛人にならないかと誘った、と暴露した。このスキャンダルに加えて、リクルート事件、消費税導入が嫌われ自民党は参議院選挙で過半数の議席をとれず大敗し、宇野氏は首相の座を降りた。

アメリカでは政治と政治家のセックス・スキャンダルが学術的な研究分野になりつつある。日本でもこの分野を週刊誌に任せておくだけでなく、気鋭の政治学者が政治過程論関連の研究対象として取り上げてみてはどうだろう。



4 ポスト・トゥルース

先月(20174月)の16日、山本幸三・地方創生相が大津市で開催された地方創生セミナーで、「一番がんなのは学芸員。普通の観光マインドが全くない。この連中を一掃しないと」と発言したとの報道をご記憶だろう。

セミナー参加者から観光振興について助言を求められての発言だった。

英国ではロンドン五輪が終わった後に、大英博物館を大改装した。改装に反対した学芸員は全員クビになった、などと話におひれをつけた。

山本氏は同じことを国会審議でも言っていた。「ロンドン・オリンピックのときに観光を盛り上げるという意味で成功したと言われているのが、文化プログラムをつくって、ロンドンのみならずイギリス全体の美術館、博物館を観光客のために大改革をしたんですね。例えば、大英博物館の中の壁を取っ払って、真ん中に人が集まるところをつくって、そこからいろんな部門に行くというように全部やり替えました。そのときに一番抵抗したのが学芸員でありまして、そのときは観光マインドがない学芸員は全部首にしたというんですね。それぐらいの取組をやって、その後、ロンドンにまさに大英博物館を始め大変な観光客が継続して続くようになりまして、オリンピック終わってもにぎやかさを保っているというようなことであります」(201739日、参院内閣委員会)



17日、東京に帰った山本氏は「一番がんなのは学芸員。この連中を一掃しないと」との発言について「適切でなかったと思う。撤回し、おわびしたい」と記者会見で言った。

21日にはインターネット新聞『ハフィントン・ポスト』が「大英博物館の広報担当者は19日、ハフィントン・ポスト日本版の取材に対し『(山本氏の発言は)明らかな事実誤認です』『大英博物館は、観光のためにスタッフを解雇したことも、根本的な建物の改装をしたことも決してありません』と説明し、山本氏の発言内容を全面的に否定した」と報じた。

山本氏も同日、事実誤認を認めたと新聞が報じた。@時系列上の記憶違いがあった(ロンドン・オリンピック開催は2012年のことで、大英博物館の図書閲覧室・グレート・コートの完成は2000年)A反対した人が首になったのは事実ではなかった、と訂正した。さらに、新聞報道で、英国人の友人から聞いた話にもとづいて発言した、ということだった。

大勢のスタッフを抱えながらきちんとした調査もせず、聞きかじり情報に基づいて発言したわけだ。自分の主張したいことを補強する材料は、それがどれだけ主張を支えてくれるかが重要であり、それが真実であるかどうかはさほど重要ではない。山本幸三氏は今流行の「ポスト・トゥルース」の手法を使ったのである。大臣の話は眉に唾をつけて聴け。あぶない、あぶない。



5 配偶者

イギリスの国民投票でEU離脱派が勝利し、米国の大統領選挙でツイッター・マニアのトランプ氏が勝利し、トルコの国民投票で大統領制移行が決まった。このところ怒涛のような歴史逆行のドミノ現象が続いてきたが、フランスの大統領選挙では、極右のル・ペン氏が敗北した。



これからどうなるか?

そのフランスの大統領選挙で勝利したマクロン氏の政策については、日本のメディが克明に伝えてこなかったので、私は知らない。はっきりしているのは配偶者が25歳年上ということだけだ。

事あるごとに日本のテレビが年上の配偶者のことを繰り返した。

ところで、トランプ米大統領の現在の配偶者は23歳ほど年下だ。米大統領選挙期間中、日本のメディアが、マクロン氏と配偶者の年齢差ほどには、トランプ氏と配偶者との年齢差を読者の興味をかきたてるような話題にしなかった。

かわりにトランプ氏の娘の露出度が高くなった。

ドイツのメルケル首相の配偶者について、新聞は詳しく伝えていない。配偶者の名前や年齢、職業を知らない日本人は多いことだろう。

イギリスのメイ首相の配偶者についても日本のテレビや新聞が報じることはまれである。

日本の首相の配偶者についても、日本の新聞は取り立てて話題にしてこなかった。今の安倍首相の配偶者のメディア露出度はやや異例である。



6 漫画化する世界

トランプ氏が米国大統領選挙で勝利したとき、それを大いに歓迎したのはロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領だった。日本国首相も歓迎の意を表したが、日本国は誰が成ろうと新しい米国大統領を歓迎し祝福する。

プーチン・ロシア大統領は権力への執念が異様に強い。2000年以降、大統領をつとめ、首相になり、また大統領になって、任期のハードルを越える工夫をして、権力の座にとどまり続けている。ロシア国内ではプーチン支持が高いが、国外では好ましい評判を聞かない。拡張主義者とみられているからだ。

エルドアン・トルコ大統領は、反対勢力にギュレン派のラベルを張って徹底弾圧した。そのうえで、さきごろ憲法改正に成功し、自身の権力基盤を非常に強固なものにした。オスマン・トルコのスルタンや国父とよばれるケマル・アタチュルク並みの権力者になりたがっている。

フィリピンのドゥテルテ大統領は、フィリピンにときどき現れる物騒な腕力派である。ピストルの引き金を引くのが得意だ。

あれから100日ほどが経った。トランプ大統領とプーチン大統領はしっくりいっていない。トランプ大統領は、シリアでISと戦っているクルド人武装組織に武器を供給することを承認し、エルドアン大統領怒らせた。そのエルドアン大統領は訪米の途にある。どんな顔あわせになるか?

トランプ大統領はドゥテルテ・フィリピン大統領にも訪米を要請したが、ほかに要件があっていま忙しいと断られてしまった。



トランプ・米大統領は就任以来、ワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙など、彼がエスタブリッシュメントと読んだプレスから、毎日、馬鹿呼ばわりされるような批判記事を浴びせられ、世界の笑い者になっている。ポスト紙もタイムズ紙も頑張っている。大統領周辺からのリークが途切れなく続いていることにも、目を見張る。

トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」といったのは、アメリカ以外の世界のことには何の知識もなく何の準備もできていなかったためだった、ということがここにきて明らかになった。アメリカ合衆国の外交における威信がどれだけ失墜したかも、紅葉のころには明らかになるだろう。



7 ああも言い、こうも言う

米国大統領・トランプ氏は大統領選挙運動中に、米国の安全のためにムスリムを米国に入れないと叫んだ。大統領に就任するや、イラク・イラン・リビア・ソマリア・スーダン・イエメン国籍の人々の米国入国を禁止する大統領令にすぐさま署名した。

トランプ氏はムスリムが嫌いなのである。大嫌いなオバマ前大統領が在任中、キリスト教徒のオバマ氏のことをムスリムだとののしった。また、トランプ大統領の入国禁止令のリストにサウジアラビアが含まれていないことが恣意的であると批判された。9.11事件のテロリストの多くがサウジアラビア出身者だった。

トランプ大統領は就任後初めての外国出張で、まず、サウジアラビアに行った。そこで千億ドルを超える武器をサウジアラビアに売ることに合意した。なるほど。サウジアラビアがリストに入っていなかったことの理由の一つがこれでわかった。

ついでリヤドに集まったイスラムの国々の指導者に、団結してテロと戦おうと呼びかけた。Islamic extremism あるいは、Islamic terror といった用語はさけて、Islamistと言いかえるよう側近に言われていたが、リヤド演説ではポロリとIslamicということばが出てしまった。『ワシントン・ポスト』が伝えた。

ちなみに同紙は、この演説の記事に、トランプ氏が過去、ムスリムについて言及したあざけりの詳細なクロノロジーを添えた。そうしたトランプ嫌いの雰囲気の中で、日本の『朝日新聞』も522日付朝刊でリヤド演説を「二枚舌外交」と評した。



一方――。

522日付朝日新聞朝刊が、安倍晋三・日本国首相兼自由民主党総裁が、憲法9条に「自衛隊」を明記する自民党の憲法改正原案を年内にまとめたいと表明した、と伝えた。その記事の中に、「首相が憲法改正を掲げることに対する野党の『立憲主義に反する』との批判について、首相は『まったく理解できない。私は内閣総理大臣であると同時に自民党総裁だ。第1党のリーダーとして、国民に訴え、議論を深めていく、促進していく責任がある』と反論した」というくだりがある。

以前は、衆院予算委員会で自衛隊の存在を憲法9条に書き込むことについて、野党が質問すると、「内閣総理大臣として(予算委の場に)立っている」「この場は、内閣総理大臣としての責任における答弁に限定している」と逃げを打っていた安倍氏である。これまた、「二枚舌」である。

芭蕉の俳句

 若葉して御めの雫ぬぐはばや

には、

 青葉して御目の雫拭ばや

の別バージョンがある。

 俳句なら、ああそうかい、ですむが、政治家の発言の別バージョンとなると、そうはいかない。



8 ちょっと、お下品

加計学園(理事長は安倍晋三首相のお友達)の獣医学部新設問題で、「総理のご意向」文書の存在を証言した前文科事務次官・前川喜平氏について、菅官房長官が525日の定例記者会見で、異例の下品な個人攻撃コメントを口にした。



文書の存在を質問された官房長官は、文書の存在は確認できないと重ねて言明、そのついでに前川氏の人格攻撃を行い、前川氏が文科省の違法な天下りシステムの問題で引責辞任した件について「当初は責任者として自ら辞める意向をまったく示さず、地位に恋々としがみついていた」と前川氏を強く非難した(同日付朝日新聞夕刊)。

「問題ない、問題ない」を繰り返し身内の失策・失言には思いやり深いこの人が、「地位に恋々」と個人の評判や人格を貶めるような発言を、官房長官記者会見という公式の場で行わざるを得なかったのも、加計学園問題が相当深刻であることのあらわれだろう。裏切り者への悪罵のように聞こえた。

公益通報者保護法では国家公務員もその対象になっている。前川氏はもはや国家公務員ではないが、「公益通報」の精神からすれば、公務員のころ知った行政の「忖度」関連する重要問題に関して、退職後にメディアや国会議員に通報するのは、けしからんことではない。

文部科学省の高級役人たちは、かつての同僚に向けられた「地位に恋々」という侮辱的にして非情な官房長官発言をどんな気持ちで聞いたのだろうか。

さて、翌朝(5月26日)の朝日新聞朝刊を開くと、2面の前川記者会見関連記事の末尾に、「政権内には『国会を開いていると、ろくなことがない』(首相周辺)など、国会会期は延長せずに6月18日で閉会するのが得策との声もある」とあった。面白いもの言いである。



9 高度をあげれば

先週末は良い天気だったので、浅間山麓にあるシャクナゲ園に行ってきた。

嬬恋村のキャベツ畑はちょうど苗の植え付け時期だった。畑の中の農道を「シャクナゲ園はこちら」という案内標識をたよりに車を走らせた。

朝からからりと晴れた日だったので、シャクナゲ園に向かうらしい乗用車が、列はつくらないまでも、ポツリポツリと走っている。それらの車と標識をたよりに、右折左折しながら徐々に高度を上げると、標高1500メートルほどのシャクナゲ園にたどり着いた。

あいにくとシャクナゲそのものは、花の最盛期を終えていた。1週間早ければ生き生きとした花を見ることができただろう。シャクナゲの花はしおたれていたが、高い所から見おろした嬬恋村の風景はそれなりの絶景であった。

何よりも標高1500メートルともなると、やっと芽をふいたばかりの枝もある。



東京に帰ってくると、アンゲラ・メルケル独首相がミュンヘンで激しい調子の演説をする様子をテレビが流していた。「他国は頼りにできなくなってきていると、この数日で感じた」。イタリアのG7でトランプ米大統領への不信がさらに強まった。

メルケル・トランプの2人は相性が悪いようで、ワシントンでの会談では握手を求めたメルケル首相の手をトランプ大統領が無視した。トランプ大統領とはもっぱらゴルフの話しかしないどこかの国の首相とは笑顔で握手するのだが。

ワシントンでのメルケル・トランプ会談のさい、トランプ氏がメルケル氏に、ドイツのNATOへの拠出が足りないとして、3000億ドルの請求書ようの文書を手渡したという?なニュースがヨーロッパで流れていた――アウトレイジャス。

G7に先立ってベルリンで開かれた女性会議では、出席したイヴァンカ・トランプ氏が、女性の権利等の問題で、父ドナルド・トランプを擁護する発言をして、ブーイングを浴びたそうである。

平地も「木の芽時」が続いている。



10 タコ配


承前。

浅間山麓のシャクナゲ園からの帰り、軽井沢を抜けて国道18号の旧道を横川方向に下った。緑に包まれた峠道で、車は少なく、気分のいいドライブになった。

熊ノ平の駐車場から斜面の階段を熊ノ平駅跡まで登った。ここから信越本線の旧碓井線廃線跡に遊歩道がつくられている。めがね橋を通って横川駅まで6キロほどのハイキングコースだ。クマ出没に注意の警告板があった。

駐車場へもどり、車で18号を少し下ると、めがね橋の駐車場がある。めがね橋こと旧碓井線の第3号橋梁も緑の中に埋もれていた。第3橋梁は200万個以上のレンガを使った日本国内最大のレンガ造りアーチ橋だそうだ。橋の上を、以前は汽車が走り、今では人間がのんびり歩いている。碓井線は1893年にアプト式で開通したが、やがて交通量の増加で、1963年に碓井新線がつくられた。1993年から高崎・長野間を新幹線が走るようになり、碓井線は廃線となった。廃線跡は緑に埋まり、猿が出没し、鹿が走り、熊が出るようになった。

現在、JRの信越線は横川止まり。そこから軽井沢まではバス輸送になる。軽井沢から篠ノ井まではしなの鉄道(第3セクター)が走る。かつての信越本線は高崎―横川、篠ノ井―直江津―新潟間に残っている。



100年もたてばたいていのことは様変わりだ。

変わらないのは政治の手練手管。ブルガリアのIvan Krastevという知識人がロシア革命(そう言えば2017年の今年は1917年のロシア革命から100年になる)とトランプ陣営のロシア・コネクションについて、『ニューヨーク・タイムズ』(531日付電子版)に書いた “What the Russian Revolution Can Teach Us About Trump”という記事が面白かった。

安倍晋三風に「ニューヨーク・タイムズを熟読なさいませ」などと不親切なことはいわず、ごく手短に話の一部を紹介すれば以下のようである。

1917年にドイツが封印列車でレーニンをロシアに送り込んだのは、ドイツ政府がレーニン贔屓だったわけでもなく、ロシアに社会主義政権が誕生することを切望していたわけでもない。ただただ、ロシアを政治的混乱に落ちらせることで第1次世界大戦の戦況を少しでもドイツに有利にしようとする試みだった。

ここまでは誰でも知っている。面白いのはプーチン・トランプ関係へのアナロジーである。ロシアのアメリカ大統領選挙への干渉も、プーチンがトランプを好きだったわけではなく、トランプにアメリカを混乱させることで、外交におけるロシアの立場を有利にしたかったからだ。

なるほど。

トランプ大統領は就任以来、矢継ぎ早の“業績”をあげた。TPPからの米国の離脱は中国をよろこばせた。イスラム関連の入国禁止でアメリカの自由と平等の精神を傷つけた。多くの専制国家が喝采したことであろう。NATOの分担金をめぐる、例えば、メルケル―トランプの政治関係の悪化はロシアのプーチンを喜ばせた。サウジアラビアに12兆円の武器を売る約束を取り付け、武器商人のように喜んでツイッターで発信する姿は、米国の国際的威信を傷つけた。気候変動パリ協定からの離脱で、EUと米国の溝はさらに深まった。

なぜ、こういうことになるのか。

トランプ大統領が、共和党の応援を受けて、せっせと「タコ配」を急いでいるからだ。アメリカの一部の有権者を喜ばせ、2018年の中間選挙で共和党を有利にし、加えて、2020年の大統領選挙でトランプ再選を実現するための「タコ配」である。炭鉱労働者の雇用確保のためのパリ協定離脱によって、新しいエネルギー開発の世界的競争で他国に後れを取ることになると、経済学者にも経営者にも反対する人が少なくない。

2次大戦後に始まったパクス・アメリーカナの終わりの始まりになるかも知れない。やがて、米国が国連から脱退する日が来るかもしれない。いい加減なことを言うなって? 第1次大戦後に国際連盟ができた時、米国は孤立主義を唱えて連盟に加わらなかった。このことはみんな学校の世界史で習ったはずだ。アメリカ合衆国の国連分担金は約6億ドルで、全体の2割強を分担している。むしり取られる6億ドルをアメリカ市民の懐に取り返す、と言って、あのお方なら脱退を宣言しかねない。



11 そのしたたかさ

ジェームズ・コミー前FBI長官の、米上院情報特別委員会での証言は興味深かった。面白かったのはトランプ大統領の要求のあれこれではなく、要求された側のコミー氏の対応である。

トランプ大統領はFBI長官に忠誠を求めたとコミー前FBI長官は証言した。米大統領が官僚に忠誠を要求するのはよくあることだ。今でも語り草になっているのは、第36代米大統領・リンドン・ジョンソン氏の次の言葉である。「暑い盛りに俺のケツにキッスをして、大統領、バラの香りがします、と言ってくれるような奴が、まわりに欲しいのだ」。

日本国の安倍首相のまわりにもその手の輩が侍っていることだろう。「森友」といい「加計」といい「共謀罪」といい「九条・自衛隊」といい。

そんなことよりもっと面白かったのは、コミー氏がトランプ大統領と会ったあと、身の危険を予知して、大統領とのやり取りを克明なメモにして残し、そのうえ、複数のFBIの幹部とそのメモを共有していたという発言だった。周到なことである。コミー氏はさらにそのメモを知人の法学教授に依頼して、新聞社にリークしたことも明らかにした。なぜリークしたのか。リークしたメモを新聞が報道することで、特別検察官の任命が可能になることを期待したのだという。

コミー氏自身も法律家だ。ワシントンDCの錯綜した政治ジャングルを生き抜いてきたしたたかな官僚でもある。



翻って日本国を見れば、加計学園獣医学部新設問題をめぐって、文部省内で共有された「官邸の最高レベルが言っている」と書かれた文書が、非常に高い確率で存在するのであるが、官邸の最高レベルはそれを怪文書扱いにしてきた。確実に存在する文書を、存在しないと言い張るのが日本国の政権と官庁の十八番である。日本国では、議会もジャーナリズムも市民社会も非力である。

それにもまして、文部科学省の共有文書を明らかにした前川・前事務次官は、歌舞伎町の出会い系バーの件で人格攻撃を受けた。安倍政権の対韓国外交の稚拙さを私的な会食の場で批判した森本・前プサン総領事は更迭された。

高級官僚の日常を監視し、密告のネットワークを張り、個人情報を官邸の最高レベルに通報するシステムが出来ているとしか、考えられない。

そろそろ日本の官僚も米国の官僚のように自衛すべきときが来たようだ。トランプ会見メモ作成を作成して、複数の人々でこれを共有したコミー氏は、そういう意味で、日本の官僚にとって手ごろなロールモデルになる。一般官僚は上役から、高級官僚は政権から、それぞれわが身を守る術を身につけねばならない時代である。



12 噴飯

梅雨だ。南日本は大雨。関東はまだお日様が照ってはいるが、じとじととした不快な日々が続く。筆者の住まいはアパートの高層階なので、それでも朝方は窓を開けると涼しい風が入ってくる。10時を回ると、風が生ぬるくなり、始まった東京都議選挙の拡声器のキンキン声を運んでくる。もうすぐ東京もバンコクやジャカルタのような高温多湿な熱帯の地になる。



624日、晩飯を食べながらNHKニュースを見ていた。安倍総理大臣が神戸市で講演し、国家戦略特区での獣医学部の新設について「獣医師会からの強い要望を踏まえ、まずは1校だけに限定して特区を認めたが、中途半端な妥協が国民的な疑念を招く一因となった。改革推進の立場からは限定する必要は全くない。速やかに全国展開を目指したい」と言ったと伝えていた。

食べていたご飯を吹き出しそうになった――噴飯もの。

この人、頭の中の論理回路がどこかでショートしているのではあるまいか。若いころ米国の大学に留学し、学位もとらずに(あるいはとれずに)日本に帰ってきた人だから、知的な面で抜きん出た人とは思えないにしても。仮に、複数の獣医学部新設計画が進行していたとしても、その中で加計学園縁故問題が疑われれば、ネポティズムに何の変りもない。

朝日、毎日、東京(共同)の3紙など電子版は、加計学園問題関連以外に、秋の臨時国会で自民党案を衆参両院の憲法審査会に提出したいと、安倍氏が語ったと伝えた。

安倍晋三氏は1990年代には憲法9条の再検討を、2006年には憲法9条に自衛隊の存在を書き込むことを提唱した。その後、一転して、憲法96条を変更して憲法改正の発議に必要な国会議員の賛成を3分の2から2分の1にしようと言い出した。緊急事態条項を創設する話も持ちだした。それらが難しそうだと知ったら、2006年に舞い戻って、自衛隊の存在を9条に書きこもうと言っている。

政治的多動性障害のようにも見える。憲法のどこを変えるか――肝心な点があちらに跳びこちらに跳んで、焦点が定まっていない。

「一点突破全面展開」という昔の学生運動のスローガンにならっているのだろうか。あるいは、ただただ「憲法を変えた男」として日本の歴史に名を残したいだけのことなのだろうか。



13 月見の湯

群馬県の山の中の温泉宿に行ってきた。

77日はウィンブルドンで錦織選手が3回戦を戦った。夕食を済ませて食堂から部屋に帰ると、NHKテレビのサブチャンネルで錦織の試合を中継していた。



試合自体は錦織の自滅だった。テニスを職業にしている選手はそれぞれ目いっぱいに技を磨いているので、勝負の最後の決め手ては体力・筋力だろう。

最近の若い日本人は背丈が伸びているが、それでも世界水準からみると日本人の体格は貧弱である。体格に応じて筋肉量も貧弱だ。筋肉量の少ない分を、技を磨くことでしのぐとよく言われるが、筋肉量の多い日本以外の選手もフィジカル・メンタルの両面で技を磨くのに余念がないから、技は勝敗の決め手にはならない。

なんだかなあ、という気分で夜更けに露天風呂に浸った。まあるい月が頭上にあった。

8日の夕方、関越道を東京に向かっていると、丸い月がのぼってきた。暦を調べてみたら9日が満月の夜にあたっていた。

それにしても暑い。頭の中が溶けてしまいそうだ。



14 暑気あたり

暑気あたりが原因の妄想だろうか――。

ジョン・ウェインあたりが主役の、懐かしのハリウッド製西部劇のようなストーリーである。荒野の中の町を有力者――多くの場合は悪辣な牧場主――が牛耳っている。親分は少々歳を食っているが短気で、何かあるたびに、腰のモノを指先でたたいて、文句あるなら抜いて見ろ、という態度で、相手を脅かす。

その親分が念願かなって町長に選ばれた。



親分の長男や長女、長女の夫もそれぞれ自分の事業を抱えているが、親分が町長になって、町を牛耳るようになれば自然と自分の商売も繁盛することを知っていた。さらに、町長の取り巻きには、鼻っ柱の強いだけが取り柄の暴れ者が大勢いる。

親分が町長に選出されるにあたっては、隣町の気心のしれたボスと気脈を通じて、町長選挙の対立候補の足を引っ張る隠密作戦を繰り広げたと噂が立っている。

その噂を調べようとした保安官を町長が解任した。しかし、町の新聞は町長の長男や、長女の夫が隣町のボスと内密に連絡を取り合っていたようだと疑惑を書きたてる。

親分が町長になって半年がたち、最初は面白がっていた町民も、徐々に興ざめしてきている。だが、親分の一家は、しっかりと団結し町の批判の声をもものともしない。

トランプ一家。

その西部劇の一家がタイムマシンを抜けて現代のワシントンD.C.にやって来た。

ハリウッド映画の西部劇であれば、風に吹かれてやって来た無宿者が町の大掃除をしてくれることになるのだが、さて、現代のトランプ一家を待ち受ける運命や如何に?

(写真と文:花崎泰雄)