電脳千句第六 賦御何百韻 2015.7.24〜2016.9.16
初折表 001 1 |
空蝉の見果てぬ夢や明けの空 羽衣 | 夏 空蝉は「蝉」で虫類、1句物 (虫類同士は5句、虫と鳥は3句隔てる) 夢は夜分 明けの空は時分か夜分か判定が難しいが、夢にそろえて夜分。空は天象(天象同士は3句隔てる) |
002 2 | けふ咲き初めし垣のうの花 千草 | 夏 うの花は木類 垣は居所体 垣(かきほ、かきね、など)は2句もの けふ(今日)は2句もの |
003 3 | 水ぎはわに誘はれのんど潤して 遊香 | 雑 水ぎわは水辺用または用 のんどは人体 |
004 4 | 風の降り来る石山のかげ 梢風 | 雑 風は吹物 石山は山類体 |
005 5 | 白き径照らして早も月上る 夢梯 | 秋 月(光物) 道と道は5句隔てるとあるので「径」も該当。 道は地儀 |
006 6 | やがてむら雲遠く稲妻 楽歳 | 秋 稲妻(光物) 雲は聳物 |
007 7 | 烏瓜賎が家に灯をともすごと 路花 | 秋 烏瓜は草類(古典連歌では使われなかったが、俳諧では古く由緒ある季語) 賎が家は居所体 |
008 8 | もの炊ぐ香の厨口より 如月 | 雑 厨は居所 |
初折裏 | ||
009 1 | まなかひに和ぎてしづもる鳰の湖 蘭舎 | 雑 まなかひは人体 鳰の海は水辺体・名所(名所と名所は3句隔てる)『連歌新式』では、鳰も鳰の浮巣も雑。「しづもる」は「しづまる」の訛 |
010 2 | 忘れ形見を山へあづけて 羽衣 | 雑 忘れ形見は人倫 山類体 |
011 3 | ひとかひの後ついてゆく市女笠 千草 | 雑 人倫 |
012 4 | わざうたとほく雪まぜに聞き 遊香 | 冬 雪は降物 |
013 5 | しろがね(銀)のちろりにささ(酒)を調へて 梢風 | 雑 解釈次第では冬もありうる 飲食 |
014 6 | 襲(かさね)の色のすみれ匂やか 夢梯 | 春 色のすみれですが、春の季詞と受け止めて 恋(付句と連動して) 衣類 |
015 7 | 春の野に立つ吾妹子のなまめける 楽歳 | 春 恋 人倫 地儀 |
016 8 | 時へだつればうつろへる花 路花 | 春 花 木類 恋 |
017 9 | 釣釜に松の韻(おと)きく夕まぐれ 如月 | 春 釣釜は俳諧春季詞 松の韻の松は木類 松と松は7句隔てる 夕まぐれは時分 「夕」字懐紙をかえて4句もの |
018 10 | 風吹きあへぬ寂しさの果て 蘭舎 | 雑 風は吹物 |
019 11 | 手習ひの筆の遊び(すさび)のうたなれば 羽衣 | 雑 筆は『連歌新式』には言及がないが『産衣』では1句もの。要注意 |
020 12 | 壽(いのちなが)くと選ぶ言の葉 千草 | 雑 言の葉は2句もの(言の葉1、詞=ことば1) |
021 13 | まろらかな月に誘はれたもとほる 遊香 | 秋 月 光物 夜分 |
022 14 | すなどる村は秋の眠りに 梢風 | 秋 村は都・郡・鄙と同類の国郡。 すなどる(漁る)水辺用 眠り=夜分 |
二折表 | ||
023 1 | 病む雁の落ちゆく涯を思ひみる 夢梯 | 秋 雁は鳥類、春1・秋1の2句もので懐紙をかえて使う 哀傷 |
024 2 | 何を求めて出でしふるさと 楽歳 | 雑 旅 ふるさとは2句物(名所・只故郷1、旅1)居所体 |
025 3 | 夢なれや吾を愛子(まなこ)と呼びし声 路花 | 雑 人倫 夢と夢は7句隔てる |
026 4 | 蓬が島に亀憩ふとか 如月 | 雑 ここの蓬・亀は非生物 |
027 5 | はるかなる雲にたゆたふ宝船 蘭舎 | 春 宝船は俳諧初春の季語 雲は聳物 |
028 6 | 小松引きたる宴(うたげ)なつかし 羽衣 | 春 懐旧 小松引くは初の日の御遊びの恒例の行事。小松は木類 |
029 7 | 衣手に触るれば消ゆる春の雪 千草 | 春 雪は降物(4句もの。春雪は別物で、面をかえる) 衣手は衣類 |
030 8 | 野にも人にもあへしらふ朝 遊香 | 雑 野は地儀 人は人倫 朝は2句もの(只1、今朝1)時分 |
031 9 | 萱葺くもゆひの力のまざまざと 梢風 | 秋 「萱」は秋、「萱の軒端」も秋(『無言抄』) 萱刈るの場合は草類だが、 萱葺くは建築材料なので非草類 |
032 10 | 稲穂の波の黄金かがやく 夢梯 | 秋 稲穂の波 この段階ではまだ「稲」で、草類 |
033 11 | ざざめきて鄙も都も秋の月 楽歳 | 秋 月 天象・光物 都・鄙は国郡 |
034 12 | けふの円居(まどゐ)の幸(さ)くあれかしと 路花 | 雑 けふ(今日)は2句もの、初折表2に既出なので、これで使い切り |
035 13 | 笠のままよどみなく詠む連ね歌 如月 | 雑 旅 |
036 14 | 風に染まなむ恋ざめの酒 蘭舎 | 雑 恋の字で恋 風は吹物 |
二折裏 | ||
037 1 | とてもたつうき名をあだにかへもせず 羽衣 | 恋 |
038 2 | 久しかりつるささがにの卜 千草 | 雑 恋 ささがには蜘蛛のこと、連歌のころは無季の虫類 |
039 3 | さざれみづいつか早瀬にあふものを 遊香 | 雑 恋 「さざれみづ」は水辺用。早瀬は水辺体。「早瀬」と「あふ」で「あふ瀬」を示唆。さらに崇徳院の「瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ」を連想させる。 |
040 4 | ひとくひとくと鳴くものを見に 梢風 | 雑 「ひとく」は鶯の鳴き声の擬声語。ひとくひとくと鳴くもの=うぐいす、となるが、この場面では春にも鳥類にもならない。 |
041 5 | 白梅の香のみ残せる空屋敷 夢梯 | 春 白梅(梅は5句もの、只1、紅梅1、冬木1、青梅1、紅葉1。白梅は只の梅)は木類 空でも屋敷は居所 |
042 6 | 西へ送らん花のたよりを 楽歳 | 春 花 木類 |
043 7 | 夕星(ゆふづつ)の野火の烟のあはいから 路花 | 春 野火は俳諧春の季語 夕星は光物、時分 野は地儀 烟は聳物 |
044 8 | 連なる嶺のむらさきに溶け 如月 | 雑 山類 |
045 9 | 老いぬれば道をいづくとわかねども 蘭舎 | 雑 述懐 老は2句もの(只1、鳥木などに1) |
046 10 | 笈に秘めたるみほとけの笑み 羽衣 | 雑 釈教 |
047 11 | 白雲のいくつ鏡のうみに浮き 千草 | 雑 雲は聳物 海は2句もの(只1、名所1、わたつみ等は別)水辺体 |
048 12 | あこやの珠の聞きし波音 遊香 | 雑 波音は水辺用 あこやの珠(阿古屋の玉)は真珠のことで、製品なので非水辺 |
049 13 | 寝ねおつるしじまを抜けてゆきし月 梢風 | 秋 月 光物 夜分 |
050 14 | 棉吹く畑のしるきあけがた 夢梯 | 秋 棉吹くは草類 畑は山類 明け方は夜分 |
三折表 | ||
051 1 | ふり返ることのみ多き秋の道 楽歳 | 秋 |
052 2 | あはれ優しき文でありしに 路花 | 雑 文は3句もの(恋1、旅1、文学1)「ありしに」で述懐。恋、述懐 |
053 3 | 魂のあくがれ歩(あり)く地の極(はたて) 如月 | 雑 旅 地の極は地儀 |
054 4 | 蜘蛛の巣こぼれのこりたる館(たち) 蘭舎 | 雑 蜘蛛の巣は俳諧で夏ですが、「こぼれのこりりたる」で、雑の気配。 館は小規模な城あるいは官舎、居所体 |
055 5 | 枢(とぼそ)落ちまばゆき光り差し込みぬ 羽衣 | 雑 枢は1句物にして居所体 光は光物に非ず |
056 6 | 鳥船絵巻ひもとかれゆき 千草 | 雑 |
057 7 | 空言(むなこと)をふはり飛ばせしあまり風 遊香 | 夏 「あまり風」は極楽のあまり風のことで、涼風の意、夏。風は吹物 |
058 8 | きこしめしては泳ぎ出す君 梢風 | 夏 泳ぎ=水泳は夏の季語 「きこしめす」は飲食 君は人倫 |
059 9 | 身をまかせ流るゝままに雲に問ふ 夢梯 | 雑 身体 聳物 |
060 10 | はやも日は暮れ鐘もかすみて 楽歳 | 春 鐘は4句物(只1、入相1、釈教1、異名1、日は暮れに続く鐘なので入相の鐘) 時分(日暮れ時) |
061 11 | わび住まい貌よ鳥など啼くを待ち 路花 | 春 貌よ鳥(貌鳥=かほどり)は一座一句物、鳥類 わび住まいは居所、あるいはライフスタイルなら非居所 |
062 12 | 八重山吹にしのぶ歌びと 如月 | 春 山吹は一座一句物、植物分類上は木類ですが連歌では草類(連珠合璧集) 「しのぶ」で述懐 人倫 |
063 13 | 蛙にもたはぶれせむとや蓑かさむ 蘭舎 | 春 蛙は連歌では虫類(連珠合璧集)・水辺用 |
064 14 | 翌なき春をてらす月の出 羽衣 | 春 月 光物 夜分 |
三折裏 | ||
065 1 | 餞にますらをぶりの涙ぐみ 千草 | 雑 旅 人倫 |
066 2 | 音に聞きしは大地(おほつち)の破(や)れ 遊香 | 雑 大地は地儀 |
067 3 | よにふれば心のひだも衣がへ 楽歳 | 夏 世は5句物(只1、浮世・世の中の間に1、恋の世1、前世1、後世1) 衣は衣類 衣と衣は7句隔てる |
068 4 | 力草こそ今は頼りと 夢梯 | 力草は力種であり、植物の草類ではありません |
069 5 | わざをぎのわざも空しきことと知り 梢風 | 雑 「わざをぎ」は滑稽な所作をする人(人倫) |
070 6 | 戯れ遊び野に寝ねしとは 路花 | 雑 野は地儀 野に寝ねは野宿で夜分 |
071 7 | 真清水のいのちあらたに流れ出で 如月 | 雑 いのち(命)は2句物(只1、虫の命など1) 清水は水辺用 |
072 8 | 富士の根語るこゑも懐かし 蘭舎 | 雑 富士の根=富士の嶺 山類体 名所 |
073 9 | 神の如いでまし鬼の如かくれ 羽衣 | 雑 神祇 神は3句物(只1、神代1、名所神1) 鬼は1句物 |
074 10 | 冬めく空をまらうとの月 千草 | 冬 空は天象 人倫 月は光物(この月は昼月? 夜分? |
075 11 | 木枯らしにものや思ふと問はれしか 遊香 | 冬 木枯らしは1句物 吹物 |
076 12 | すぎゆくものはかくも美し 梢風 | 雑 |
077 13 | この花に古人の声をきく 夢梯 | 春 花 木類 古人は人倫 古は一句物 述懐 |
078 14 | その折々の春やさまざま 楽歳 | 春 |
四折表 | ||
079 1 | そねみとふ悲しきこころ雪解川 路花 | 春 雪解川は水辺体 |
080 2 | 陽炎揺れて消ゆる幻 如月 | 春 聳物 |
081 3 | このあたり破れたる笠の捨て処 蘭舎 | 雑 |
082 4 | 手づから植うる一本の苗 羽衣 | 雑 人体 数字 この苗は草類 |
083 5 | 目つむればいつしか母に抱かるる 千草 | 雑 人体 人倫 述懐(懐旧) |
084 6 | ふと先の世の繰り言をきき 遊香 | 雑 世は5句物(只1、浮世・世間の間に1、恋の世1、前世1、後世1)「先の世」は後世の変形。先の世の繰り言は、未来からの繰り言で、時間の流れが逆転した「述懐」。 |
085 7 | ほとびたる乾飯のみの朝餉にて 梢風 | 雑 飲食(乾飯、朝餉) 時分(朝) |
086 8 | 夏行の僧のよろよろと立つ 夢梯 | 夏 夏行(夏安居)と僧は釈教。僧は胡蝶・芭蕉・屏風などと同様、字音であるが慣用語として連歌で使用。夏行については、諸本に言及がないが、このさい、便乗。僧は人倫 |
087 9 | 人はみな心のうちに木下闇 楽歳 | 夏 人倫 木類 木下闇は非夜分 |
088 10 | 夕立つ雲のすこし遠のき 路花 | 夏 「夕立つ」は降物 時分 雲は聳物 |
089 11 | 国引の丘より望む海凪ぎて 如月 | 雑 丘は山類体 海は水辺体 国引きの丘は国郡 |
090 12 | 月に浮かぶは浦のとも舟 蘭舎 | 秋 月 光物 夜分 浦は水辺体 友船は水辺体用外 |
091 13 | 焦がれしをいなおほせどり(稲負鳥)つかはされ 羽衣 | 秋 恋 鳥類 |
092 14 | 忘れ扇を美濃の国まで 千草 | 秋 忘れ扇 本説・班女 国郡 |
四折裏 | ||
093 1 | 墨にほふふところ紙や秋の風 遊香 | 秋 秋風は吹物(秋風、秋の風各1の2句物) |
094 2 | くさの名に似る女童の名も 梢風 | 雑 「くさ」は草で草類 女は(千句に)一句物ですが女童(めわらわ)は別、人倫 |
095 3 | うす紅の細長に濃き袿(うちき)着て 夢梯 | 雑 袿(うちき・うちかけ)は衣類 |
096 4 | 帆上げ出づればかすむ島影 楽歳 | 春 かすみは聳物 島は水辺体・山類体 |
097 5 | のどらかに途切れとぎれの水主の唄 路花 | 春 (長閑) かこ(水手・水主・楫子)は水辺用・人倫 |
098 6 | 引きゆく鶴の餞とせむ 如月 | 春 鶴は2句物(つる1、たづ1)鳥類 「雁帰る」にならい、「引きゆく鶴」も春とする |
099 7 | 花あかり奥へ奥へとしたふ道 蘭舎 | 春 花 木類 |
100 8 | 筑波はるかに仰ぎ見る春 羽衣 | 春 名所・国郡 |