<ご覧になる前に一言ご注意申し上げます。挿入した写真のなかに死体が写っているものが数枚あります>

観光旅行にも旬があり、賞味期限がある。年を経るにしたがい訪れる先の風景・風物は変化する。訪れる旅行者の方にも、加齢に従って、その嗜好や思考が変化する。

インド・デカン高原のアジャンタ石窟寺院とエローラ石窟寺院にお連れしますという日本の旅行社のパンフレットを見て、インド旅行に出かけた。高齢者には骨身にこたえるパック旅行である。

アジャンタ


エローラ


結論から言えば、つまらない旅だった。ニューデリーにはこれといって見物に値する観光資源はなかった。開発志向のモディ政権もすでに10年が過ぎ、3期目に入った。インド人のガイドは、開発はずいぶん進んだといったが、1人当たりのGDP3000ドル程度である。富は偏在し、ニューデリーの街中にも路上生活者がいる。



1980年代中ごろに見たニューデリーの町はこんな感じだった。


風景が変わったような、変わらないような。人口14億を超える国である。変わりたくても、そんな早く変身できない。

デリーから飛行機でバラナシ(ベナレス)に飛び、午後到着。ホテルに荷物を置いてすぐ、ガートのプージャ(祈り)に案内された。115日の日曜日。ガート付近はひどい人出で、プージャのショーを上演するあたりは立錐の余地もない。ヒンドゥー教の宗教行事では、雑踏事故で多数の人が圧死することがよくある。20251月にはインド北部のプラヤグラージで宗教行事クンブ・メラの最中に雑踏事故が発生、30人が圧死した。また、在インド日本大使館は2026126日の月曜日がインドの共和国記念日にあたるため「在留邦人及び出張者・旅行者の皆様におかれましては、テロなど不測の事態に巻き込まれることのないよう、不要不急の外出を控え、報道等から最新の情報の入手に努めてください。また、外出先では周囲の状況及び不審物に注意を払い、不審な状況を察知したら速やかにその場を離れるなど安全確保に十分注意してください」と警告を出していた。



バラナシガートのプージャ(祈り)は、大掛かりな真言密教の護摩のような催しで、わたしの趣味ではなかった。1980年代中頃のバラナシのガートで見た祈りの姿はこのような雰囲気があった。



翌日早朝、ガートに案内された。朝の祈りと沐浴の見学だったが、寒さのせいもあってガートの人影は閑散としていた。

ガートの横の火葬場には火が見えた。



1980年年代に撮影した火葬風景と変わりはなかった。



しかし、こう言っては何だが、雑踏事故の恐怖を感じながら夕方にプージャの光のショーを見て、翌日早朝に船からガートをながめ、それでバラナシ見学ははいおしまいとは、あきれたインド旅行であった。

1980年代の一人旅のときは、ベナレスのガートから水草にのって流れる髑髏や、水草の間に浮かぶ遺体が見えた。新型コロナウィルスが猛威を振るったときは、ガンジス河には遺体がどんどん流れ、岸辺に漂着したそうである。

  

また、1980年代のコルカタ(カルカッタ)では、路上に遺体が横たわっていたが、人々は気にも留めずに歩いていた。



バラナシからアグラへ行き、タージ・マハルも見たが、観光客が増えた以外に、1980年と景色は変わるところがなかった。

アグラからジャイプールへ行ったが、興味深いものはなった。ジャイプールで面白かったのは、宿泊したスペイン趣味のホテルだ。洗面所のノブが「C」と「F」の表記になっていた。Cはカリエンテでお湯、Fはフリオで水。Cのノブをひねっても出てくるのは冷水だけ。Fを開けるとお湯が出た。インド式の冗談だろうか?

シャワー・ブースの湯温もいい加減で、「35」では熱すぎ「20」と「15」の間で、適温になった。インドにはセルシウス(摂氏)とファーレンハイト(華氏)以外に、別の温度表示があるのかな?

メインテナンスが行き届かないだけの話だろう。

ムンバイでは巨大な手作業洗濯集団の作業場を見学した。すっかり観光のアイテムにとり入れられ、道路わきの見学スペースから見ることができる。

       

1980年代のバラナシのガートの洗濯風景が懐かしい。

       

ヒンドゥー・ナショナリズムを掲げて開発にいそしむ、インド人民党のモディ政権の下で、インドは人権活動家、ジャーナリストらを弾圧していると、国連やヒューマン・ライツ・ウォッチは批判する。そういう話はまた別の機会に。

2026年のインドの旅で、インドの少女たちがわれわれ老夫婦のところへやってきて、一緒に写真を撮りたいといった(写真左)。1980年代に写真をとってくれと言った娘さん(写真右)とは、雰囲気がちがう。モディ政権の開発政策によって都市中間層が拡大しているのだろうか。

  

(写真と文:花崎泰雄)

         ――終わり――